豊平館のなごり
豊平館が中島公園に移築された跡地は、池は埋め立てられて市民会館やNHKが建てられましたが、かつての庭園のなごりとして、樹木が2本だけ残されていました。
そのうちの1本は市民会館の西側に立っていたヤチダモの大木で、3本立ちの見事な枝振りでしたが、1997年(平成9年)6月そのうちの1本が市役所側に突然倒れ、すぐ隣のバス停の屋根を押しつぶす事件が起き、すべて伐採されてしまいました。
もう1本、今も残っているのがハルニレの大木です。下の方から大きく枝分かれし、ゆったりとした樹形を誇っているこのハルニレは、樹齢が三百年と推定されている、市内でも最も立派な樹木です。明治20年の絵図にもその樹形のまま描かれており、かつての庭園の中でも最も立派な樹形であったことが分かります。
豊平館がなくなったあと、北大通が西の方と同じ規格で延長されたため、道路と市民会館の境界がこの木の根元になってしまい、半分は市民会館、半分は歩道の中に立つことになってしまいました。一応市の指定する「シンボル樹木」として保全対象にはなっていますが、実質的にはほとんど延命措置がなされないままになっているのです。
2004年(平成16年)に、景観法が制定され、札幌市も都市景観条例が改正されて、「札幌景観資産」という、景観的に優れた建造物や樹木を指定できることになりましたが、樹木では唯一この木が指定されています。札幌のシンボル的なハルニレの大樹であり、その歴史的な意味合いを考慮すれば当然の指定ですが、これを契機にもっと根元の生育環境の改善など、この木がまだまだ生きていける環境づくりを行ってほしいものだと思います。
監修:(有)緑花計画 笠康三郎
(参考:さっぽろ文庫「豊平館・清華亭」札幌市教育委員会、北海道新聞社、1980)